中国が台湾に侵攻したら、ロシアと同様の制裁を科せるか?西側の制裁の威力、新型の経済兵器は諸刃の剣

中国が台湾に侵攻したら、ロシアと同様の制裁を科せるか?

西側の制裁の威力、新型の経済兵器は諸刃の剣

2022.4.25(月)The Economist

The Economist (1845年創刊の英国の有力経済誌で、特に経済、国際政治に関して世界的に権威のある媒体とされる。知識層からの信頼が厚く、歴史観と見識に富んだ鋭い分析、オピニオン記事に定評がある。世界発行部数は約142万部。)

「米国は中国の準備資産の凍結や没収にまで本当に踏み込めるだろうか」

 中国銀行の取締役をかつて務めた王永利氏は先月発表した一文でこう問いかけた。なるほど、簡単には答えられないよい質問だ。

 ロシアがウクライナに侵攻した後、米国とその同盟国はロシアの中央銀行に重い制裁を科し、同国の外貨準備のおよそ半分を使えないようにした。

 またロシアの大手銀行の一部を西側の金融システムから切り離したほか、多くのハイテク製品のロシア向け輸出も禁止した。

 では、もし中国が台湾侵攻のような地政学的に軽率な行動を起こしたりしたら、西側陣営はロシアに科したような制裁を中国にも科すことができるのだろうか。

欧米の金融覇権はなお健在

 米国と同盟国は間違いなく、その手段を持っている。米コーネル大学のエスワー・プラサド氏は「金融の支配力の中心はまだ西側にしっかりとどまっている」と語る。

 中国は恐らく、3兆2000億ドルに上る外貨準備の約3分の2を西側諸国の国債やそれに類するもので保有している。

 その額が非常に大きいため、現実にこれらの代わりになる富の蓄積手段はほとんどない。

 また、欧米諸国が自国の金融機関に中国の銀行との取引を控えるよう指導すれば、中国の銀行は米ドルやユーロ、英ポンドを調達できなくなる。

 だが、そこまで踏み込むことが本当に西側にできるのだろうか。

 中国の外貨準備「凍結」は、それほど大きな不安定要因にはならないかもしれない。仮に中国が西側に対する腹いせで保有する国債などを投げ売りしたいと思っても、制裁を科されていたら、売ることができない。

 中国はそうした証券を新たに買うこともできない。だが、債券市場は中国の不在をそれほど気にしないだろう。

 中国はこのところ、大口の買い手ではなくなっているからだ。

 それに、もし台湾が侵攻されれば市場はパニックに陥り、民間の投資家の資金が高格付け債にどっと流入するきっかけになるだろう。

西側の金融機関に思わぬ反動

 しかし、中国は別の反撃手段を見いだすかもしれない。特に考えられるのは、西側の政府や企業が中国国内に保有する多額の資産の差し押さえだ。

 米ワシントンのシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のジェラルド・ディピポ氏によれば、昨年末時点で外国人が保有する直接投資(工場など)の規模は3兆6000億ドルに上り、株式や債券、およびそのほかの「ポートフォリオ(間接)」投資も2兆2000億ドルに達している。

 合計すれば、外国人がロシアに保有する資産の6倍以上になる。

 西側諸国が中国の中央銀行だけでなく民間金融機関にも制裁を科したらどうなるだろうか。まず、西側機関が金融の「ブローバック(意図せぬ反動)」にさらされる恐れがある。

 主要国の金融当局で構成される金融安定理事会(FSB)によると、「グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIB)」30行には、中国の銀行が4行含まれている。

 この4行を機能不全に追い込めば、これらの銀行に資金を貸したり口座を開設したりしている西側金融機関も打撃を被りかねない。

 では、中国の銀行を切り離しても自分たちの金融の安定性は揺るがないと西側諸国は確信できるのか。答えは「ノー」だ。

 有力金融機関でつくる国際金融協会(IIF)のクレイ・ラウリー氏はそう語る。「私はその確信は持てない」。

金融制裁は貿易にも波及

 こうした手段は貿易にも大混乱をもたらす。

 中国が昨年行った貿易取引のうち、人民元で決済されたものは2割にも満たない。残りの大部分は米ドル建てだ。

 米ピーターソン国際経済研究所のマーティン・チョルゼンパ氏は「保険と貿易信用を利用できなくなれば、かなりの量の経済活動が消滅する」と指摘する。

 中国は120を超える国々にとって最大の貿易相手国であるため、貿易が混乱すれば世界のほかの国々が米国とその同盟国に反感を抱くようになるかもしれない。

 西側諸国にも打撃が及び、結束と決意が揺らぐ恐れもある。

 中国からの輸入が輸入全体に占める割合は米国で約18%、欧州連合(EU)で22%超に達しており、そこには国内で生産するモノの部品などが多く含まれている.

この理由から、中国との貿易を妨害すれば、輸出品を含む自国の生産にも打撃が及ぶ。

 ウィーン経済経営大学のガブリエル・フェルベルマイヤー氏が共同研究者らと行ったシミュレーションによれば、もし中国からの輸入を90%超削減したら、米国とその同盟国の輸出はほぼ10%減ることになる。

中国の巨大市場が武器

 中国が行使できる影響力の最大の源泉は、自国の巨大な市場だ。

 例えば、米国は半導体など特定のハイテク部品が中国に出荷されるのを止めたいと思うかもしれない。

 だが、米ボストン・コンサルティング・グループの試算によれば、出荷を完全に禁止すれば米国の半導体企業は売上高の37%を失い、12万人超の雇用が危うくなる。

 片や中国は、多くの電子製品で使われる「レアアース」の輸出抑制に動くかもしれない。

 これが実行されれば、電気自動車向けバッテリーやそのほかのニッチな製品のサプライチェーンが途絶する恐れがある。

 中国は、敵国が手放したくないと思っているかもしれない市場から、相手を締め出すこともできる。

 例えば、欧州の制裁は当初、24億ドル規模のロシアの高級品市場を対象外にした。いわゆる「グッチ免除」だ。

 データ収集会社スタティスタによれば、中国の高級品市場の規模は年500億ドル超に上る。

 ロシアが反撃しようとした時には、西側はいつでも、それよりも強烈な経済的パンチを繰り出すことができる。

 シンクタンクの新米国安全保障センター(CNAS)のエディ・フィッシュマン氏は、中国に対しては必ずしもそうではないと述べている。

 となると、中国が実際に反撃に出る可能性が高くなる。

 米国とその同盟国は、ロシアに科したものと同じ制裁を中国に科したりすれば、かなりの痛みを被ることになりかねない。

 よって西側は恐らく、そこまでやろうとしないだろう。

 だが、中国があえて確かめようとしないことを祈らなければならない。

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